平成18年意匠法・特許法・商標法等の 一部改正について

 1.意匠法の改正について
 (1)意匠権の存続期間の延長
 1)意匠権の存続期間が、現行の登録日から15年から、登録日から20年に  延長されます。この改正によって、登録日から15年を超えるようなロングライ  フな商品について意匠 権の保護を受けることができるようになります。   また、最近のリバイバルブームによる過去に商品化した商品に関する再度の商  品化をする場合にも意匠権の保護が従前よりも受けやすくなると思われます。将  来予測は難しいとは思いますが、現時点では商品として販売数は少ない又は全く  ないものでも、一度爆発的に売れた商品については意匠権を存続させておくこと  もご検討されるとよいと思われます。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願され    たものからの予定です。  (2)画面デザインの保護の拡充
 1)画面デザインに関しては、現行の審査基準では、    *物品の成立性に照らし不可欠なもの    *物品自体の有する機能により表示されているもの    *変化する場合において、その変化の態様が特定したもの  をすべて具備した画面デザインが意匠法上の意匠に該当すると判断されていまし  た。この改正後では、意匠法2条2項が新設されて「物品がその本来的な機  能を発揮できる状態にする際に必要とされる操作に使用される画面デザイン」  について、保護を受けることができるようになります。   例えば、携帯電話の通話者選択の画面デザイン、DVD再生録画機の録画  予約操作用画面デザインなどにも意匠権を取得することができます。   この改正によって画面デザインについて意匠権を取得できる範囲が広がります  が、韓国やCD(ヨーロッパ統一意匠法)では認められているホームページの画  面デザインは、この改正によっても意匠権を取得できません。   また、ゲーム機でゲームを行っている状態の画面デザインは、この改正でも意  匠権を取得できません。各種の装置において、その装置の本来的な機能を発揮で  きる状態にする際に操作に使用される画面デザインであれば、意匠権を取得でき  る可能性がありますので、そのような画面デザインを創作された場合には、一度  具体的にご相談下さい。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願さ  れたものからの予定です。  (3)意匠の類似範囲の明確化
 1)現行では、意匠の類似についてどのようにその類否を判断するかについては  具体的には規定されていません。この改正によって、意匠の類否判断については、  需要者の視覚による美観に基づいて行うことが明確にされます。この「需要者」  には、取引者及び一般需要者が含まれるとされています。   現行では審査官は創作説的な考えで意匠の類否を判断してきたものと思われま  すが、この改正後に実務レベルでどのような変化がみられるかは不明です。但し、  物品によっては、一般需要者が広く捉えられると意匠権の類似範囲が広がること  になり、他人が当該物品についてなかなか意匠権が取得できないとの状況も生じ  得るように思われます。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に審査等  がなされるものからだと思われます。  (4)3条の2(先願の拡大)についての時期的制限の緩和
 1)現行では、先願の意匠に含まれるものと同一又は類似である後願の意匠は、  意匠法3条の2によって登録を受けることができませんでした。この改正後では、  先願と後願の出願人が同一人であり、意匠公報発行日前の出願であれば、  3条の2の適用なく登録できることになります。     この改正によって、実務上の一般的な審査期間は約7ヶ月ですので、先に製品  の全体意匠を出願しておき、必要に応じて部分意匠や部品の意匠を出願すること  も可能になります。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願され  たものからの予定です。  (5)関連意匠についての時期的制限の緩和
 1)現行では、同一出願人が同日に出願する場合に限り、先願主義の例外として、  本意匠に類似する意匠について関連意匠としての登録が認められていました。こ  の改正後では、本意匠についての意匠公報発行日前までに関連意匠出願  をすれば関連意匠として登録できることになります。   先ず製品のプロトタイプが制作され、その後に少しアレンジされた量産品が制  作される場合も多くあり、この場合には先ず製品のプロトタイプが発表される前  に意匠出願し、その後量産品の意匠が確定することになります。このとき、現行  であれば製品のプロトタイプの意匠と量産品とが類似していれば、市場において  模倣されやすい量産品を中心とする意匠権が確保できないという不利益がありま  した。この改正によって、本意匠の意匠公報発行日前に関連意匠出願できること  になりますので、このような不利益を回避することができるようになります。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願され  たものからの予定です。  (6)その他
 1)秘密意匠制度についての秘密請求の時期が現行では出願と同時でありますが、  この改正によって出願と同時にしなくても登録料納付と同時であればよいことに  なります。なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出  願されたものからの予定です。  2)新規性喪失の例外の適用についての公開の事実を証明する書面の提出期限が、  現行では出願から14日以内でありますが、この改正によって出願から30日と  特許法の規定と同一になります。なお、この改正法が適用されるのは、平成18  年9月1日以降に出願されたものからの予定です。


 2.特許法の改正について
 (1)分割出願の時期的制限の緩和
 1)現行では、分割出願できる時期は、明細書について補正のできる時期、すな  わち拒絶理由通知前、拒絶理由通知に対する応答期間内、公知文献名等不記載通  知に対する応答期間内、および審判請求の日から30日以内となっていました。  この改正後は、これらの時期に加えて、特許査定謄本の送達日後30日以内  (但し、特許権の設定登録前まで)、及び拒絶査定謄本の送達日後30日  以内にも分割出願ができるようになります。   現行では、拒絶査定を受けた後に分割出願をしようとすると、拒絶査定を受け  た親出願についてもはや権利取得を目指す意思がなくとも、まずは拒絶査定不服  審判を請求する必要がありました。改正後は、いわば無駄な審判請求をすること  なく、分割出願をすることが可能となります。また、特許査定を受けた後でも分  割出願の機会が与えられることとなるため、分割出願を行うか否かの判断を、何  れかの査定を受け取るまで待つことができるようになります。   特許の発行まで分割出願(規則§1.53(b)に基づく継続出願、特許法§121の分  割出願)ができる米国、特許付与の告示の前日までに分割出願ができる欧州(E  PC)の制度に近づくことになります。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願され  たものからの予定です。原出願が前記施行日前にされたものにはこの改正法は適  用されません。  (2)分割出願の補正制限
 1)現行では、原出願の審査において既に拒絶理由が通知されている発明を、そ  のままの内容で分割出願することができました。この改正後では、分割出願の審  査において、原出願の審査等において通知済みの拒絶理由が解消されていない場  合には、1回目の拒絶理由通知を受けた場合であっても、「最後の拒絶理由  通知」を受けた場合と同様の補正の制限が課せられることになります。制限  に違反する補正を行えば、最後の拒絶理由通知を受けた場合と同様に、補正は却  下されます。   現行では、拒絶理由通知で拒絶すべきものとされた発明を、補正することなく  分割出願へ移すことにより、審査官を代えていわば一から審査のやり直しを受け  ることができました。改正後には、このような分割出願の利用の仕方は許されな  くなります。この点、最後の拒絶理由通知を受けた発明を、補正することなく分  割出願(規則§1.53(b)に基づく継続出願)すると、第1回目に最後の拒絶理由  通知を受ける米国の制度に近似したものとなります。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願され  たものからの予定です。  (3)拒絶理由通知後に別発明へ変更する補正の禁止
 1)現行では、拒絶理由通知を受けた後に、特許請求の範囲を技術的特徴の異な  る別発明に変更することにより、実質的に2件分の審査を受けることが可能にな  っていました。この改正後では、拒絶理由通知を受けた後に、特許請求の範囲  に記載された発明を技術的特徴の異なる別の発明(発明の単一性を満たさな  い発明)に変更する補正は禁止されることになります。  例えば、電話機の表示器の発明について進歩性がないという拒絶理由通知を受け  た後に、この発明を特許請求の範囲から削除し、明細書に記載されていた電話機  の押しボタンについての発明を特許請求の範囲に記載する補正を行うことで、発  明の単一性を満たさない表示器と押しボタンとの双方について審査を受けるとい  うことが、改正後はできなくなります。この点でも、米国および欧州と同等の扱  いとなります。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願された  ものからの予定です。  (4)外国語書面出願の翻訳文提出期間の延長
 1)現行では、外国語書面出願の日本語翻訳文の提出期間は、出願日から2月以  内となっていました。このため、パリ優先権主張を伴う外国語書面出願の場合に  は、第1国出願日から最大1年2月を翻訳文作成に充てることができました。そ  の一方、外国語書面出願によって我が国に第1国出願した場合には、翻訳文作成  のための期間は2ヶ月しか与えられませんでした。     この改正後では、外国語書面出願の翻訳文の提出期間が、出願日(パリ優先  権を主張して第2国出願した場合は第1国出願日)から1年2ヶ月以内とな  ります。   日本企業に勤務する外国人による発明については、特許明細書の原稿を発明者  が習熟する英語で仕上げる方が、発明者によるチェックが容易で精度が高く、よ  り良質な明細書に仕上がる場合があります。また、大学発明などは、英語論文の  作成と並行して特許出願の準備がなされる場合があり、論文原稿を利用して特許  明細書を英文で作成した方が能率的である場合もあります。外国語書面出願は、  このような場合にも利用価値のあるものですが、改正後は、出願後1年2ヶ月ま  で日本語翻訳文の提出を待つことができますので、より利用し易くなります。   また、第1国出願日から1年後より早めに、パリ優先権を主張した第2国出願  を外国語書面出願でする場合にも、早く出願した分だけ日本語翻訳文の提出に要  する期間に余裕が生まれます。なお、米国でも日本語による特許出願が認められ  ていますが、翻訳文の提出は、出願後通常2ヶ月(翻訳文を提出すべき旨の通知  により指定される期間(規則§1.52(d)))となっており、今回の改正は、出願人  にとって米国よりも親切な内容と言えます。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願され  たものからの予定です。


 3.商標法の改正について
 (1)小売りサービスについての商標権による保護
 1)現行では、小売りサービスについては、商標法上の「役務」に該当せず、商  品を販売するための付随的なサービスであるとされてきました。この改正後では、  商品を取り扱って販売する小売り又は卸売業に関するものであれば、デパ  ート、コンビニ、家電量販店等の総合小売り、又は靴屋、本屋、八百屋等の  専門店、並びに通信販売事業者、インターネット販売事業者等によって提供  される顧客に対して行われる便益の提供は、小売りサービスとして商標登録  を取得できるようになります。   この改正によって、具体的な審査基準が公表されていないので、確かなことは  言えませんが、小売りサービスとして提供される商品とその小売りサービスとの  間で類似すると判断されるとすれば、商品商標としての使用をしないのであれば、  小売りサービスに関する商標だけを取得しておけば足りる場合もあるかもしれま  せん。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成19年4月1日以降に出願さ  れたものからの予定です。  (2)団体商標の主体の拡大
 1)現行では、民法34条の規定により設立された社団法人及び事業協同組合そ  の他特別の法律により設立された組合が出願人になれました。この改正後では、  出願人となれる範囲が社団(法人格を有しないものを除く)及び事業協同  組合その他特別の法律により設立された組合へと拡大されます。この社団  には、商工会議所、商工会、NPO法人、中間法人等が含まれます。     この改正によって、例えば、NPO法人が団体商標出願の出願人となれますの  で、NPO法人の構成員が商品の販売又はサービスの提供をする場合に、団体商  標権を取得することができ、それによりNPO法人自身が権利主体として振る舞  えることになります。  2)なお、この改正法が適用されるのは、平成18年9月1日以降に出願され  たものからの予定です。


 4.その他
 (1)意匠法、特許法及び実用新案法における「実施」の定義に「輸出」を追加  すると共に、「侵害物品の譲渡等(譲渡、貸渡、輸出)を目的としてこれを所持  する行為」がみなし侵害規定に追加されます。なお、この改正法は、平成19年  1月1日から施行される予定です。  (2)特許法、実用新案法、意匠法、商標法の刑事罰が、例えば特許侵害罪では  直接侵害の場合、懲役10年・罰金1000万円、これらの併科、及び法人  重課3億円に強化されます。なお、この改正法は、平成19年1月1日から  施行される予定です。                            (2006年8月更新)
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